このパンデミックが始まる前まで、私自身、ウイルス感染の防御のためのマスクの意味を疑問視していました。診療中もあまりマスクをしておりませんでした。マスク素材の繊維の穴よりウイルスは小さいのだから、という理由です。しかし、その後、様々なエビデンス、特に日本エアロゾル学会の記事を読んで、考えを改めました。それによると、空気中の微粒子がマスクのフィルターで除去されるしくみは、繊維の「ふるい」で網目より大きな粒子を引っかけて除去するのではなく、細長い繊維の表面に粒子を付着させて捕集するので、「繊維の隙間より小さい粒子はマスクのフィルターを通過する」は間違いであるとのことです。大事なことはマスクのフィルター性能より、マスクの縁と顔表面との隙間からの漏れ(侵入)を少しでもなくすこと、と。

マスクを常時使用して診療をするようになってから、この1年、ほぼ風邪をひかなくなりました。患者さんもマスクをして来院されますし、こちらも常時マスクをしているのですから。やはりマスクによる飛沫の低減は感染予防に効果大と確信されます。

では、マスクの素材についての議論です。

話題になった、理化学研究所のスーパーコンピューター「富嶽」による、シミュレーションです。その結果、マスク素材によって飛沫防止効果に歴然とした差異がありました。不織布マスクでは、吸い込み飛沫量が30%、吐き出し飛沫量が20%程度になるのに対して、ウレタンマスクではそれぞれ、吸い込みが60-70%、吐き出しが50%、とのことです。

さらに、国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長で医師の西村秀一先生による研究では、不織布マスクでは2.0-5.0μmの粒子では98.4%、0.3-0.5μmの粒子でも90%以上の磁粒子除去性能があった一方で、ウレタンマスクでは5.0μm以下の粒子はほとんど除去性能が0であるという実験結果になりました。

以上からは、お互いに「不織布マスク」をしている場合が最良といえそうです。

ところで、長さの単位で、1ミリの1000分の1は1μm(マイクロメートル)ですが、2~5μmの粒は気道の抹消に到達するとされています。

この季節は、人体からの飛沫のみならず、スギ花粉、大気汚染物質、黄砂など、空気中に様々な微粒子が飛んできて気がかりです。それぞれの粒子のサイズは、

① スギ花粉は直径30μm
② 黄砂は約4μm
③ PM2.5は2.5μm以下
④ ウイルス飛沫(咳やくしゃみの水分+ウイルス)は約2μm(ウイルスそのものは0.1μmとさらに小さい)
となっています。

不織布マスクには、性能を示すBFE(%)PFF(%)98以上などの表示がパッケージにありますから、ある程度参考にして製品を選択し、それよりも、顔面との隙間なく正しく装着することで、さまざまな飛来粒子から体を守り、また、お互いに感染症の広がりを予防しましょう。

不織布マスク装着のチェックポイントは3つ!
① 鼻の部位の針金を曲げてフィットさせ隙間ができないように。
② プリーツを広げて顎まで覆う。
③ 両頬に隙間ができないように。